黒川温泉(熊本県南小国町)は、日本を代表する温泉のひとつです。こぢんまりとした旅館が20件ほどしかないこの地に、日本はおろかアジア各国からも観光客が押し寄せます。
名物は「洞窟風呂」を代表とする自然味あふれる露天風呂です。
しかし、ここはかつてはゴーストタウンと呼ばれるほど、さびれた温泉街でした。それを変えたのは、たった一人の男でした。
若い頃は周囲から「奇人変人」「バカ」と呼ばれていた後藤哲也氏(1931年生~、現81歳)です。
よく地域や社会を変えるのは、「若者、よそ者、そしてバカ者」と言われます。後藤氏は、まさにその典型的な人物です。
後藤氏は旅館・新明館の3代目でしたが、父を含めた周囲とことごとく対立していました。「古いやり方では、こんなところに客は来ない」と考える彼と、保守的な地元の人々の間には埋めがたい溝があったのです。
そんな後藤氏は24歳のとき、何を思ったのか、裏山にノミ1本で洞窟を掘り始めます。毎日、毎日、黙々と岩壁を掘り続ける彼の姿は、「変人」そのものでした。当然、周囲は「ついに狂ったか」と思います。
しかし、彼には「魅力的な風呂を作れば、客はかならず来る」という、信念がありました。そして、掘り続けること3年半。ついに間口2m、奥行き30mの洞窟を掘ることに成功します。さらに、裏山からたくさんの雑木を運び入れ、自然味あふれる「洞窟風呂」を完成させます。なんとも幻想的な雰囲気ですが、これすべて後藤氏の手掘りです。ちょっとアンビリバボーですね。
その後の黒川温泉のサクセスストーリーは、周知の通り。上記の本を読めばよくわかります。
後藤氏の熱意は、ついに彼をバカにしていた人たちをも動かします。他の旅館経営者たちも、後藤氏に教えを請い、ノウハウを学びます。そして黒川温泉は息を吹き返すのです。
新しいことを始めようとして周囲に理解者がいないときや、孤独で潰れそうなときに本書はバツグンに効きます。ぜひご一読ください。
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